太宰ミニエッセイ|秋
【コンセプト】
お酒は、それは、お燗して、小さい盃でチビチビ飲むものにきまっている。当り前の事である。−太宰治『酒の追憶』より(1948年)
縁戚の傍島(そばじま)家の囲炉裏端で、燗酒を飲む太宰。盃を交わしているのは、明治高等小学校時代の恩師であった傍島正守、かもしれない。
【エッセイ】
お酒は、それは、お燗して、小さい盃でチビチビ飲むものにきまっている。当り前の事である。−太宰治『酒の追憶』より(1948年)
文豪と酒は蜜月である。太宰もまたしかり。彼が日本酒を飲みはじめたのは高等学校時代らしいが、意外にも最初のころは味が苦手だったとか。〈どうも日本酒はからくて臭くて〉、しかし〈芸者遊びなどしている時に、芸者にあなどられたくない一心から〉無理に飲んでは吐いてを繰り返し、〈甚だ情無い苦行の末〉に慣れたのだというからなんだか微笑ましい。
明治高等小学校で太宰を指導し、その文才をいち早く見抜いた傍島正守。太宰のいとこ・ふみが彼に嫁いだことから、津島家と傍島家は縁戚となった。太宰は生家『斜陽館』から3km弱離れたところに建つ傍島の家によく訪れていたという。
2019年に一棟貸し古民家『かなぎ元気村 かだるべぇ』として生まれ変わった旧傍島家。茅葺屋根の母屋に足を踏み入れると、いくつかの静謐なお座敷と、囲炉裏の間があった。住んだこともないのにこうした日本家屋を無条件に懐かしく思うのは、日本人のDNAの仕業だろうか。火を起こした囲炉裏端に座り、秋刀魚の串刺しを焼きながら、ふだんは飲まない日本酒にちょっと口をつけてみる。「かだるべぇ(一緒に語りましょう)」。盃を軽く掲げたほろ酔いの太宰が、津軽弁でそう声をかけてきたような気がした。
魚野 しかるに(うおの・しかるに)
イラストレーター。ファッションデザイン画のようなタッチを得意とする。
HP:https://ndnkrs.myportfolio.com
三橋 温子(みつはし・あつこ)
ライター兼デザイナー。武蔵野美術大学卒。会社員、フリーランスを経て、株式会社設立。旅と小説と音楽が好き。
2023.9.22
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