天草雑節ミネストローネと潜伏キリシタン巡礼の道でWell-being| 小タヌキのウェルネスコラム第21回
<漁村のシンボルとなっている崎津教会>
青森ねぶた祭も近づき、今年はどんなねぶたが出陣されるのだろうとワクワクしている、暑い暑い夏。気候変動の波を各地で実感しながらも、ここちよいニッポンを掲げ、ポジティブにニッポンのWell-beingツーリズムの実現に向けての歩みを進めている。
前回、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産のある新上五島を紹介したが、今回は、その関連遺産である天草市の崎津集落から潜伏キリシタンが信徒発見の舞台となった大浦天主堂へ洗礼に訪れた巡礼の道をE-MTBで巡るアドベンチャーライドについて語っていこう。
博多から九州新幹線で出水駅下車、そこから路線バスで鹿児島県長島町の長島港からフェリーに乗り換えて、天草市牛深港へ。牛深は、古くから長崎や薩摩を往来する「潮待ち風待ち」の港としても知られ、漁港には帆船が並び、夜な夜な宴会が繰り広げられていたまち。世が世なら小タヌキは、ここで酒におぼれた人生を送っていたかもしれない(笑)。
江戸時代から明治時代にかけて、日本の海運を担った「北前船」の船員たちは宴の思い出を牛深ハイヤ節とともにお土産にして、北は北海道江差町まで唄と踊りを広げていった。そして徳島の阿波踊りや新潟の佐渡おけさ、青森の津軽あいや節といったハイヤ系民謡として、それぞれの地域で根付いていくのである。
牛深港でハイヤ節の資料館を訪れた時、ふと津軽三味線といった民俗芸能を伝えたいと願う、かなぎ元気村と牛深はつながっていると勝手に思いを寄せた。
一旦、ハイヤ節は置いておこう。
牛深漁港に昼前に到着。天草レストハウス結乃里のオーナーでもある高広宗明さんがガイドとしてお出迎え。早速、ハイヤ節が鳴り響いていた艶町の風情をご案内していただいた後、漁港へ導かれる。なんと漁船の上で食べる漁師めしが待っていた。
漁師のさばく鯛のづけ丼である。シメはだし汁茶漬。これが絶品である。実は牛深は雑節の生産地であり、この雑節の風味や味わいの深さが、地元食材と醤油と本当に調和してひとつの丼の世界をつくる。翌朝、地元野菜の雑節ミネストローネをいただくのだが、これもまた、絶品。雑節はこの地域の生活に潤いを与える妙薬と実感した。
その後、E-MTBバイクで牛深市街地から天草最南端下須島へ。そして宿泊の魚貫崎までの約25㎞を走る。途中、雑節工場にも寄ってもらう。翌日のハイライトで約45㎞を走るウォーミングアップにしては、やや長いが、起伏のある海岸線を気持ちよく走った。
翌朝、天草レストハウス結乃里の武田昌代さんのつくる元気の源となる雑節ミネストローネで腹ごしらえをして、いよいよハイライトとなる世界文化遺産「崎津集落」から天草ロザリオ館、大江天主堂、そして下田温泉を経由して、長崎へ向かう富岡港までのE-MTBのアドベンチャーライドへ。
小さな漁村である崎津集落の潜伏キリシタンは「絵踏み」など弾圧を受けながらも独自に信仰を深め、200年以上潜伏する。1873年にキリスト教が解禁されると、潜伏キリシタンは、大浦天主堂へいき、カトリックの洗礼を受ける。実はその時に通った巡礼の道が、今日のコースとなっている。
まずは、弾圧が行われていた吉田庄屋役宅跡に建てられた、漁村の小さな崎津教会を見学。潜伏キリシタンの暮らしぶりをガイドしていただいた後に、いよいよ巡礼の道を走っていく。
この日も、多くは起伏のある天草の海岸線を走っていく。E- MTBだから、そんなに負担なく走っていける。潮風がここちよい。途中で、天草ロザリオ館や大江天主堂を見学しながら、ゆっくりと進む。
大浦天主堂の神父に潜伏キリシタンがカトリックの洗礼を受けにいくこの道を歩んでいる情景が思い浮かぶ。
潜伏キリシタンの信徒たちも、神父さまにお会いできる、堂々とゼウス様に祈ることができる、ワクワクしながらも、ときどき心配もよぎったに違いない。思いが交差しながら長崎へ向かった道だったのだろうと100年以上前を想起しながら走っていく。
とはいえ、この国立公園ともなっている天草の西海岸の絶景がここちよくさせてくれ、前向きに長崎に向かったに違いない。
自然と文化が交差し、そして人が思いを持って歩いた「道」というものの価値を改めて実感するひとときである。そして、その当時の思いに少しでも触れることができるのが、このプログラムの魅力であった。まさに走ることで、地域が近づき、幸せが拡充していく、これこそがWell-beingツーリズムのコンテンツだと実感した。
さて、少しだけハイヤ節に戻ろう。
このハイヤ節を宴会場というよりは海岸線や砂浜で浴衣を着て唄い踊る。唄うことで潮風をカラダ一杯に吸い込み、そして、踊ることでここちよい運動に。これこそ、タラソテラピープログラムである。終わったら雑節のミネストローネで一服、そしてもう一踏ん張り、唄い踊り、ほどよく汗をかく。
まさにウェルネスプログラムとして、インバウンドにも人気のプログラムになるに違いないと思うのだが…よし、これは提案してみよう。
なにより、小タヌキがハイヤ節を唄い踊りたいと思っているから実現したいと思う。
2024.7.29
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