「土地の持つ魂を活かした地域づくり」|小タヌキのウェルネスコラム第10回

お陰様で還暦を迎え、ダルマケーキに目を入れ、新たなチャレンジを誓う。

還暦を迎えた。60歳になるということを意識していなかったが、やはり「還暦」という言葉を改めて噛みしめてみると、ほんとうに60年間、きちんと歳を重ねてきたのか、どうやってここまでたどり着いたのか、過去と今の自分について考える機会になる。還暦は、60年をかけて生まれた年の干支に還ることに由来し、61歳(満60歳)を祝い、新たなリスタートを切る年齢。赤ちゃんに還るので赤いちゃんちゃんこを着るともいわれる。

「土地の持つ魂を大切にしなさい」。人生の半分の時間である30年間、地域づくりのサポートを生業としてきたが、その礎となった言葉である。

1997年に「ガーデニング」という言葉が日本流行語大賞トップ10にもなったが、その数年前、ガーデニングがトレンドとなる予兆をキャッチして、旅行会社の海外旅行企画も手掛けていた私が造成したのが「英国庭園巡りとガーデンデザインを学ぶツアー」であった。
その時、出会ったのが、英国ガーデンデザイナーズ協会会長であり、世界のトップガーデンデザイナーとして、世界を駆け巡っていたジョン・ブルックス氏である。英国で実際に日本人向けのガーデンデザイナー講座をやってきただき、参加者からも評判がよく、日本での活動に興味を持たれたジョン・ブルックス氏の国内のマネジメントをすることになったのである。

ジョン・ブルックス氏は来日の度によく語っていた。「英国では貴族を中心に豪華絢爛な庭園を楽しんでいたが、産業革命後、空気のよどんだ都会での暮らしに疲れた人々が郊外へ移住し、自分の生まれ育った農村風景を自分の庭に持ち込むようになり、庭に癒しを求めるようになっていった。日本においても、バブルが崩壊し、成長期の終焉とともに、身近に自然を愛でる機会がもっと増えていくはず」。
まさにその予言は的中し、日本においてガーデニングブームが訪れるのである。その時こんな指摘もいただいていた。

「日本では花がメインになった庭が目立つ。英国庭園の傾向は、花はあくまでもボーナス。緑を中心に高木、中木、低木、宿根草、一年草の順番で何を植えるかを考え、3年、5年、10年後にどのように育ち、どんな輝きを見せるかをイメージし、デザインすることが大切なんだ。さらに、隣の家の庭の高木やその先に広がる風景と調和した、風が流れ、土の香りが漂い、木漏れ陽が楽しめる、そんなガーデンを創ることが心豊かな暮らしを育むんだよ」。

ジョン・ブルックス氏の視点では、日本の最近の庭は、目先の「美しい」や「かわいい」に目が向き、庭本来の「ここちよい」「気持ちのよい」とは、懸け離れていたようだ。もちろん、ジョン・ブルックス氏は日本庭園には尊敬を持っていて、自らのデザインにもそのテイストを取り入れていた。京都をご一緒したときは、石庭から動かなくなってししまったことを覚えている(笑)。

「植物は、基本的にはその土地に根差したものを使うのが基本。それが庭を愛でる人にとって持続的にここちよく暮らせる庭になる。そして、季節の花などのボーナスを加えることで、庭に集う人までを楽しませることができる。その土地にしかない庭を創ることにつながる。結果として、地域に根付き、季節に応じた植物をボーナスとして見せていくから結果、コストもかからずに済むんだよ」。

「風を感じなさい、光を感じなさい、土を感じなさい、そして土地の持つ魂を大切にしなさい」。これは、ジョン・ブルックス氏が講習会の度に話していた言葉である。

土地の持つ魂=地域に育まれてきた資源(DNA)とその物語をしっかりと引き出したガーデンデザインが、ここちよい時間をつくり、人を集め、賑わいをも作っていくとジョン・ブルックス氏は教えてくれた。

これは、地域をけん引する人、その人を伴走する私たちのような仕事をする人にとっての根幹とつながると仕事をご一緒していく中で、気づかされた。あれから四半世紀。今の私の生業の根幹には「土地の持つ魂」を引き出し、物語を大切にすることが息づいている。
還暦を迎え、改めて、ジョンブルック氏の言葉を嚙みしめている。次回は、地域づくりと土地の持つ魂についてもう少しシンクロさせて、書き綴ってみたい。

ドイツのハーブ庭園では、その土地に息づくハーブを植え、緑と花の彩と香りを楽しんでいる

道の駅「とみうら枇杷倶楽部」の庭をコストを控えた欧風ガーデンを実

2023.8.19

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