「阿蘇の持続可能な観光地域づくり」 | 小タヌキのウェルネスコラム第14回
先日、清水寺で発表された漢字は『税』であったが、自分的には『熱』。今年還暦を迎えたが、生きてきた60年間で一番温度の高い日が続き、まさに「熱波」ウィークを実感したというのが、この一文字を選出した理由だ。本当は人生振り出しに戻って、もう一度情熱を持って人生を楽しみたい、その『熱』といいいたいところであるが…
今まで通ってきた地域から豪雨災害の被害が届き、農作物の被害も目の当たりにし、南の魚種が北へ北へと水揚げ港を上げていくことを実感した。2023年は『気候変動』を身近に感じ、『地球沸騰化』という言葉が自分の脳裏で踊り続けていた、そんな年であったといえる。
かなぎ元気村で39℃となったのだから、異常を超えた異常という他はない。
そんな時世だからこそ、私が携わる観光地域づくりでも叫ばれているのが、『持続可能な』観光地域づくりの具現化である。、コロナ禍に入った頃からであろうか、サステナブルツーリズムという概念が大きな広がりを見せてきた。国連世界観光機関(UNWTO)によると、サステナブルツーリズムとは「訪問客、産業、環境、受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光」。
もはや欧米豪からやってくる訪日外国人にとって、環境に配慮していることは当たり前に。地域の自然、文化、歴史が持続的に保全・活用される取り組みを行っている地域でなければ目的地にならないという時代になってきているのである。それほど、世界的にも気候変動をはじめとする諸問題が身近な問題として顕在化しているのだ。
私が訪れている阿蘇市。日本を代表する観光地であるが、阿蘇市でも積極的に持続可能な観光地域づくりに取り組み、少しずつ、小さな好循環が生まれてきている。
阿蘇は、東西に約18㎞、南北に25㎞、周囲128㎞という世界最大級といわれるカルデラで、湖が存在しているのではなく、街が存在しているという稀有な土地である。そのカルデラには豊富な水が蓄えられ、地下水が所どころから噴出している。美味しい米処でもある。
さて、カルデラを囲む外輪山と阿蘇五岳には、人の手によって、千年以上続いてきた草原が広がり、四季折々に様々な顔を見せてくれる。
阿蘇あか牛が放牧され、酪農がおこなわれている。そこで育った茅や薄は堆肥となり、カルデラの水田を肥沃にする。野焼によって維持される草原は、カーボンニュートラルに寄与し、草原自体は水涵養作用があり、九州500万人の生活を支える水源となっている。
そして、阿蘇は希少な花々が可憐に花を咲かせ、そこには阿蘇にしか生息しない蝶、オオルリシジミやヒメシロチョウが舞う。カヤネズミや鹿がひっそりと息づき、クマタカが大空を旋回する。生物多様性が守られている千年続く草原。
牧野を管理する人たちが大幅に減少した現在、危機が迫ってきているのも事実。そこで、公益財団法人グリーンストックが千年草原を持続可能なことにしていくためにボランティアの方々を集め、輪地切※や野焼を支えるしくみを構築している。ボランティアが2,300人派遣できる輪が広がり、小さな好循環が生まれ、まだまだ足りてはいないが、草原維持が進みつつある。
千年守られてきた草原景観は多くの人を魅了し、観光客を誘客し、経済効果を上げてる。一方で、景観地となっている大観峰や草千里、火口などは、コロナ禍の前にはオーバーツーリズムにもなっていた。
そこで、私も伴走しながら、取り組んできたのが、こういったオーバーツーリズムを引き起こすインバウンド客ではなく、阿蘇の草原保全の取り組みの価値を認め、取り組みを支援してくれる観光客に向けたサステナブルツーリズムコンテンツの開発である。持続可能な観光地域づくりをけん引する阿蘇の自然、そして草原景観を保全、活用し、好循環を生んでいくための観光コンテンツ開発をコロナ禍の中、少しずつ開発を進め、今年の5月以降、おかげさまで多くのインバウンド客から好評を博した。
実は、10月「ツーリズムEXPOジャパン2023」(大阪・関西)にて、その中のコンテンツの一つが観光庁主催「サステナブルな旅AWARD」の大賞を受賞。『特別な許可を得て草原体験!噴煙を上げる阿蘇中岳火口と「千年の草原」E-MTBライド』である。さまざまな小さな積み重ねがそれを実現したといっても過言ではない。
この口蹄疫の問題などで一般の観光客が普段は入れない草原を活用した観光コンテンツが具現化していった過程やその内容、サステナブルにどのようにつながっているのかは、新年に、2024年の抱負とともにご紹介したいと思う。
みなさま、よいお年をお迎えください。気候変動や戦争などにより膨らむ社会不安をぶち壊す、ここちよい時間を来年は一緒に過ごせていければと考えております。
阿蘇外輪山から見下ろす雲海。草原も美しい
阿蘇千年続く草原
阿蘇草原をE-バイクで走り、阿蘇五岳を望む。
2023.12.25
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