地域DNAに価値を生み出し、Well-beingのお裾分けする「信越自然郷」 | 小タヌキのウェルネスコラム第18回

 さて、青森県の桜シーズンの到来に。春を感じはじめると、今年の冬はどうだったのかなと思う地域と組織がある。長年、ベンチマークしている長野県飯山市にある信州いいやま観光局である。
 長野・新潟2県9市町村が連携して観光振興に取り組む「信越自然郷」。この「信越自然郷」はインバンド需要もコロナ禍前に戻り、大いに盛り上がっている。その観光振興を推進するのが、地域連携DMO業務を担う(一社)信州いいやま観光局である。
 2012年から5年で外国人宿泊者数が5万6千人から233万人と4倍強にした。スキーのみならず、他のアクティビティも人気が高まって、夏のインバウンド数も増えている状況を生み出した組織の一つである。

 

 信越自然郷の地域のひとつ、野沢温泉村の夜の風景をここで紹介しよう。
 オーストラリアやニュージーランドからのスキー客が街の通りに溢れ、居酒屋店内の日本人は少数派。外国人家族が英語の居酒屋メニューを見ながら談笑している。コロナ禍から復活し、野沢温泉ではこれが当たり前の光景になっている。
 ゲストハウス経営者によると「公衆浴場にもオーストラリア人が多く、のんびりと入っています。野沢温泉は熱いお風呂が当たり前、日本人が温泉に水を足そうとすると、彼らに逆に怒られます(笑)」。
 野沢温泉郷は、大型の宿泊施設が少なく、家族経営の旅館が多かった。しかし、ご多分に漏れず担い手不足、労働力不足の波、料理を提供するのが厳しい状況に。不動産がオーストラリア人に買われていることでも最近は話題になっているが…
 そこで、B&B形式の旅館が増え、街には宿泊客が溢れるようになった。特にインバウンドのスキー客は平均5泊程度しているというから、泊食分離がうまく進み、このような受入状況が実現できたのだとという。

 

 信州いいやま観光局の前事務局長を務めていた高野賢一氏は語る。「当初日本ではオプショナルツアーのヒット商品を生まないと半ばあきらめられていましたが、外国人観光客の来訪とともにその考えが一変しましたね」。信越トレイルを誕生させ、森林浴ウォークをはじめ様々なインストラクションをする高野氏は感慨深げに続ける。「インバウンド客でも男性はスキーに没頭しますが、女性、子供たちは違うこともしたくなるんですよね。そこで人気の高い観光コンテンツがスノーモンキーツアーやかまくら体験となってきたんです」。
 コロナ禍前になるが、野沢温泉に滞在しながら、北陸新幹線で富山や金沢まで魚介類を食べにいく日帰りツアーも参加者が増えていたという。そして、信越自然郷を構成する山ノ内町の湯田中渋温泉郷にある地獄谷野猿公苑にスノーモンキーに会いに行くツアーは大盛況。

 

 私も一度どんなものかと訪れたことがある。入口からしばし歩くが、野猿公苑まで外国人のありの行列が続く。夫婦、親子でのんびりと湯につかり、癒されているスノーモンキーとの出会い、「KAWAII!」という言葉があたりを飛び交っているのだ。私自身は、そのスノーモンキーを見に来て癒されている外国人を見に来たようなものだが、世界で唯一温泉に入ると言われるスノーモンキーの姿はSNSで拡散され、多くのインバウンド観光客を呼び込んでいるのだ。
 その他にも冬の人気コンテンツは目白押し。スノーシュー体験を各地に拡げた実績を持つ「冬のブナ林スノーシュー体験」、上杉謙信の見張りがのろしを上げる場所で食べたといわれる郷土料理と豪雪地帯のかまくらを活用した「のんびり田舎のかまくらの物語」、そしてゲレンデをファットバイクでダウンヒルする「雪チャリSNOW PARK」のなどの興味をそそるログラムがラインナップされている。

 

 さて、時間を戻そう。私が初めてこの地を訪れたのは、今から四半世紀ほど前。
 1997年、飯山市になべくら高原「森の家」が登場する。当時、グリーン・ツーリズムの先進事例と取り上げられた施設である。地元の生産農家を名人、達人として登録して、農業体験、林業体験、自然体験などのプログラムをラインナップした。最盛期には、名人・達人が240人登録され、年間300を超える体験メニューが実施され、地域を巻き込んで、最初は近郊の都市部住民が参加し、話題となり、名古屋の人たちが訪れ、そして関東圏からも人がやってくる、まさに交流拠点となっていった。
 2011年、森林セラピー基地いいやまの取り組みが評価され、第3回ヘルスツーリズム大賞を受賞。翌2012年には、信越トレイルの取り組みが第7回エコツーリズム大賞を受賞。信越トレイルは日本のトレイルをけん引する事例として注目を浴び、なべくら高原「森の家」がプラットフォームになり、国内外のお客様を呼び込んでいる。。2008年、コースは全長80㎞でオープンし、現在では、新潟県苗場山まで延伸し、110㎞のトレイルコースとなっている。このトレイルは8年間かけて、行政・民間が連携・協働して整備を進めた。コース整備にはボランティアの力が大きかったという。そして、トレイルガイドも積極的に育成。宿泊・タクシー・代行などと連携し、経済効果も上げてきている。実は私たち奥津軽トレイルも信越トレイルに学び、その後を今でも追いかけ続けている。

 

 地域DNAを掘り起こし、付加価値をつけていく、その共感を呼び込むコーディネイト力があるのが、信州いいやま観光局といえる。そして、地域住民がそういった地域づくりに参画していくことで、地域にWell-beingな状況を生み出し、そこに訪れている人にもそのWell-beingをお裾分けている。それが、ここ信越自然郷!と私は注視し続けている。

 


野沢温泉村はインバウンドで賑わう

 


バーは英語のメニューが主流

 


公衆浴場も外国人で賑わう

 


かまくら&のろし鍋体験フライヤー

 


ブナの森の中でセラピー体験

 


信越トレイルの道を官民協働で切り拓く

 


スノーモンキーに群がるインバウンド客

2024.4.17

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